昔、年とったお妃にただ一人きれいな娘がありました。
大人になった王女は、外国の王子と結婚するため旅立つ日がやってきました。
そこでお妃は、王女のために立派な嫁入り財産を荷造りさせ、一人の侍女をつけました。
お妃はこの王女を心から愛していたのです。
王女と侍女は旅のためにそれぞれ一頭ずつ馬をもらいました。
侍女は王子の手に花嫁である王女を渡すことになっていたのです。
王女の乗る馬はファラダといって口のきける馬でした。
いよいよ別れの時が来ると、お妃は小刀で指を傷つけ、白い布に三滴の血をたらしました。
「かわいい娘、これを大切にしまっておくのですよ。きっと途中でいることがあるでしょうからね」
出発して一時間ほどで王女はひどく喉が渇き、侍女に小川から水を汲んで来てほしいと頼みました。
侍女は「喉が渇いたなら小川で腹ばいになって水を飲んだらいいでしょ。あなたの侍女になっているのはまっぴらごめんですよ」と言いました。
王女は馬から降りて小川に身をかがめて飲みました。すると、三滴の血が言いました。
「もしこのことをあなたのお母様がお聞きになったら、きっと心臓が張り裂けておしまいでしょうに」と。
二人は何マイルも馬に乗り続けました。
そして、再び喉の渇きのために馬から降り、川に身を乗り出していたとき、三滴の血のついた布は懐から落ちて流れていってしまいました。
これを見た侍女は、自分がこの花嫁を好きなようにできると大喜びしました。
なぜなら王女は、あの血の滴りをなくしたことでどんな力もなくなってしまったのですから。
侍女は「ファラダには私が乗ることになってるんですよ。あなたはこの駄馬に乗っていけばいい」と言い、王女の立派な服を脱がせ、自分の粗末な服を着るように命令しました。
そして王子のお城に着いてからも、このことを誰にも言わないと誓わされました。
もし王女がこの誓いを拒んだら、たちまち殺されてしまったことでしょう。
でもファラダは、これをひとつ残らず注意して見ていました。
侍女がファラダに、本物の花嫁は駄馬に乗り、とうとうお城に着きました。
王子は侍女を花嫁だと思い込んでいましたが、王様は駄馬に乗った王女を見て、なんとも上品な美しさに目を見張りました。
本物の花嫁は、ガチョウの番をしているキュルトヘンという少年の手伝いをすることになりました。
偽の花嫁は王子にお願いをしました。「旅の途中にひどく私を怒らせたファラダという馬の首を切って下さい」と。
自分が王女をどんな目にあわせたか、馬がしゃべりはしないかと恐れたからでした。
とうとう忠実なファラダは殺されなければなりませんでした。
この話は王女の耳にも入り、皮剥人に金貨を渡し一つのお願いをしました。
それは、王女が朝夕にガチョウを連れて通る大きな門の下に、ファラダの首をとめておくことでした。
朝早く王女とキュルトヘンが門の下をくぐって出ていくとき、通りすがりに王女は呼びかけました。
「そこにかかっているファラダよ」
すると、首は答えました。
「そこをお通りの王女様。もし母君がお聞きになったらその心臓は張り裂けましょう」
王女は町の外に出てガチョウを追って野原に行きました。
牧場へ来ると、王女は座って髪をとぎはじめました。髪の毛は純金でした。
キュルトヘンは輝く髪を見て喜び、二、三本抜こうとしました。
これに気づいた王女は言いました。
「吹け吹け風さん。
キュルトヘンの帽子を飛ばして追っ払っておくれ。
髪を束ねて花嫁の冠を作るまで。
それをもう一度頭に乗せるまで」
すると、強い風が吹いてきてキュルトヘンの帽子は飛ばされ、どこまでも追いかけていくよりほかはありませんでした。
城に戻ると、キュルトヘンは「もうあの女の子とガチョウの番をしたくありません」と王様に言いました。
そして、門の下にかかっている馬の首と話をすること、牧場での出来事を話しました。
王様はキュルトヘンに明日もう一度ガチョウ番をするように命じました。
翌朝、王様は門の陰に隠れて、王女がファラダの首と話すのを聞きました。
それから牧場の茂みに身を隠し、王女が純金の髪をとかすのも見ました。
王女が歌うと風が吹いてキュルトヘンの帽子が飛ばされることも。
その日の夕方、ガチョウ番の少女が戻ってくると、王様は何故そんなことをするのか尋ねました。
「王様に申し上げることはできません。私の命が奪われます」と答えました。
王様は「わしに言えないのなら、あそこの鉄の暖炉に向って訴えるがよい」と言い出ていきました。
王女は鉄の暖炉の中に這いこんで、心の中にあることをぶちまけました。
「私は世間の誰からも見捨てられました。あの嘘つきの侍女が力ずくで王女の服を脱がせ、王子様の花嫁の席を横取りしました。もし母がこのことを聞いたら、心臓が張り裂けてしまいましょう」
それを聞いた王様は、王女に立派な服を着せました。その美しさといったらまるで奇蹟が起こったようでした。
王様は王子を呼び寄せ、真実を打ち明けました。王子は王女の美しさを見て心から喜びました。
それから大宴会が催されました。
王様は侍女に一つのなぞかけをしました。主人に欺いた女はどんな目にあわせたらよいかと言って、今までの成り行きを話し尋ねるのでした。
「さて、その女はどんな判決を受けるべきかな?」
偽の花嫁は答えました。
「それは、その女をすっ裸にして、内側にとがった釘が打ってある樽に入れ、二頭の白馬につなぎ、町中を死ぬまで引きずりまわされるところでしょうよ」
王様は「それはおまえ自身だ。おまえは今、自分自身の判決を下したのだ」と言いました。
こうして判決が行われたとき、王子と本当の花嫁は結婚しました。そして、二人はいつまでも国を平和に幸福におさめました。
