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アンデルセン童話〖年の話し〗

ハンス‣クリスチャン・アンデルセン(1805年4月2日ー1875年8月4日)は、デンマークの代表的な童話作家、詩人です。代表作には、人魚姫、マッチ売りの少女、みにくいアヒルの子などがあります。私の生涯は波瀾に富んだ幸福な一生であった。それはさながら一遍の美しい物語(メルヘン)である。と自伝の冒頭に書かれています。

年の話しのあらすじ

一月の末のことでした。ひどい吹雪の日で、大通りも裏通りも雪がうずまいて飛んでいました。一羽のスズメが言いました。「これが新しい年だなんて。古い年が行ってしまうと暖かい日がくると楽しみにしていたのに、人間は時の計算を間違えたに違いない。」年寄りのスズメは言いました。「人間は勝手に考え出した暦というものを持っている。でもそれは、いつもうまく行くものではない。春が来て初めて年が始まるのじゃ。その春は、コウノトリがやってくる時じゃ。」こういう町にいたのではコウノトリがやってくるときがはっきりとわからないので、田舎に飛んでいってそこで春を待つことにしました。田舎はまだ冬の最中で、吹きさらしの丘の雪の吹きだまりに座っている老人がいました。全身真っ白で、髪も髭も真っ白で、目は大きく澄んでいました。そのおじいさんは冬でした。冬の老人は、目を南の方に向けたままじっと座っていました。

「春が来た!」という声が、野にも畑にも黒ずんだ森の中にも響いていきました。その時、南の方から最初のコウノトリが二羽飛んできました。その背には、かわいらしい男の子と女の子を乗せていました。二人は地面に挨拶のしるしのキスをすると、二人の足元の雪の下から白い花が咲いてきました。二人は手を取り合って、冬の老人のところにのぼっていって、改めてご挨拶をしました。そのとたんに三人の姿は消えて、辺りの景色も見えなくなりました。濃い湿っぽい霧が、すべてのものを包み込み、風がその霧を追い払うと太陽が暖かく差してきました。冬の老人はいつの間にか消えて、春のかわいらしい二人の子供が、年の王座に座っていました。「これが本当の新年だよ!」とスズメたちが言いました。二人の子どもが向く方は、必ず緑の芽が萌え出し、種をまいた畑は美しい緑色になっていきました。スミレやアネモネ、タンポポが咲いて、どの草にも水分と力が満ち溢れて、素晴らしい花の絨毯ができていました。春の少年を少女は、手をつないでそこに座りました。そして、にこにこと歌を歌っているうちに、だんだんと大きくなっていきました。

穏やかな雨が空から二人の上に降ってきました。雨のしずくと、喜びの涙が一つに溶け合いました。こうして花婿と花嫁はお互いにキスを交わしました。と同時に森の木々がぱっと芽をひらきました。やがて太陽がのぼって、森という森が緑に包まれました。こうしていく週かが過ぎると、暑さがまるで物を転がすようにやってきました。熱い空気の波が麦畑のあいだを吹き抜けていきました。サクランボの木の下には夏の美しい妻が座っていました。そして、強い太陽の光を浴びて岩の上に座っている夏がいました。今では、たくましい体つきの大人になっています。すべては力強く美しく豊かです。これこそ暑い素晴らしい夏でした。

またいく週かが過ぎました。刈り入れをする人たちの磨き上げた鎌が、麦畑できらきら光りました。リンゴの木には、枝もたわわに実がなっています。そしてその下に、男と女が休んでいました。それは、夏とそのまじめな妻でした。「何という豊かな実りでしょう!」と妻は言いました。夏が腕を上げると、森の木の葉が赤や金色に色づきました。森という森に華やかな色が広がっていきました。けれども、年の女王はしだいに口数が少なくなりだんだん青ざめていきました。「冷たい風が吹いてきました。夜が湿っぽい霧をもってきますわ。」コウノトリが一羽また一羽と遠くへ飛んでいきました。森の木の葉はますます黄色くなり、あとからあとから散り始め、収穫の秋が深まりました。黄色の落ち葉の上に年の女王が横になっていました。穏やかな目を開けて、きらきらとまたたく星を見ていました。傍らには夫が立っています。木の葉がくるくると舞い上がり、再び舞い降りてきたとき、そこには女王の姿はもう見えませんでした。

やがて湿っぽい霧が降りてきました。氷のように冷たい風と暗い長い夜がおとずれてきました。年の王は、雪のように真っ白な髪をして立っていました。うっすらと雪の敷物が緑の畑の上に広がられ、教会の鐘の音がクリスマスを告げました。「まもなく新しい支配者の夫婦が生まれるだろう。わしも妻のように休むとしよう。年の若い夫婦にこの冠と笏を譲るとしよう」と年の王は言いました。「支配権はまだあなたにあるのです。世の中から忘れられても、なお生きていく道をお考えください。春が来れば、あなたは自由の身になれるのです」とクリスマスの天使は言いました。「その春はいつ来るのか?」と冬は尋ねました。「コウノトリが来るときです!」こうして、冬は雪のように真っ白な髪と髭をして、丘の上の雪の中に座っていました。そして、前の年の冬と同じように、じっと南のほうをながめていました。

そこへまたもや町からスズメがやってきて「あのおじいさんは誰?」と尋ねました。そこにいた大カラスが答えました。「あれは冬だよ。去年から残っているおじいさんだ。暦の上では死んだことになっているけど、今にやってくる春の後見人だよ。」冬の支配者は、幼い時のことや、男ざかりのころのことを夢にみました。夜の明けるころ、森全体が霧に包まれて美しく輝きました。それは、冬の見た夏の夢でした。太陽がのぼって、木々の枝から霜を散らしてしまいました。「春だ!」という声が、雪にうずもれた丘のほうから響いてきました。その時、高い空を最初のコウノトリが飛んできました。かわいらしい子供が一人ずつ、コウノトリの背中に乗っていました。二人は広い野に降りて地面にキスをしました。それから老人にキスをすると、老人の姿は山上のモーゼのように霧に運ばれて消えてしまいました。「これでいいんだよ!とてもうまくいっているよ。暦通りじゃないけれど。」とスズメたちは言いました。

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