〈騎士〉から始まり〈十字架〉へと至るルノルマン・カードは、19世紀後半のドイツを中心にヨーロッパで広まった占い用のカードです。現在一般的に広まっているのは、36枚のカードからなる「小ルノルマン」と呼ばれるタイプのルノルマン・カードのことです。
「大ルノルマン」と呼ばれる54枚からなるルノルマンデッキもあります。
カードのルノルマンという名前は、フランスのパリで活躍した占い師マドモアゼル・ルノルマン（1772-1843)に由来しています。
マドモアゼル・ルノルマンが「ルノルマン・カード」を実際に用いていた証拠は見つかっておらず、彼女の死後に最初に出版された36枚のカードは、その名声にあやかってルノルマンという名前がつけられたと考えられています。
カードの名称はパリの有名な占い師マドモアゼル・ルノルマンに由来していますが、その絵柄はドイツの都市、ニュルンベルクという全く別の場所でヨハン・カスパー・ヘヒデル（1771-1779）という人物によって考案され、1800年ごろに出版されたカードゲーム『希望のゲーム』が起源とされています。
『希望のゲーム』は、ヨーロッパの各地で人気を博したカード、ダイス、ボードを用いて遊ばれていたゲームの中の一つです。
それらは教育的ゲームといわれ、カードを通してよき道を示し正しい選択をさせることがゲームの目的でした。それぞれのカードには人生おいて道徳的に好ましいこと、別のカードには好ましくないことが描かれています。
『希望のゲーム』とよく似た『教育的で楽しいローリーの幸福な屋敷のゲーム』には❝美徳は報いられ悪徳は罰せられる❜ ❛厚かましさ、慎みのなさ、恩知らずはひんしゅくを買う。こうした振る舞いに報酬は与えられない❜ などの言葉が使われていて道徳的、教育的な意図に基づいて作られているのがわかります。
『希望のゲーム』のカードには、小ルノルマンと同様のシンボルが描かれていて、36枚のカードを並べてダイスを使いプレイします。また、小冊子が添付されていて、単純な質問への答えを導き出す占い的な使い方も記されているのです。
『希望のゲーム』の翻訳
このゲームには何人でも参加できる。プレイヤーは全員が一人６マルクから８マルクを容器の中に入れておく。36枚のカードを1、2、3…36まで順に並べ、プレイヤーは2個のダイスを振りダイスの目の数だけ駒を進めていく。
ダイスで3の数を出して3番目の船のカードまで進んだら、幸運なことにカナリア諸島まで連れて行ってもらえる。そこは有名な12番の美しい鳥たちの住処である。
19の塔に止まったら、塔からの美しい眺めを楽しむためにプレイヤーは2マルクを支払う。
35の錨はゲーム全体で最も重要なカードである。この『希望』の絵のところまで進んだプレイヤーはゲームの勝者となり、現金箱ないしは預金からすべてを引き出せる。
『希望のゲーム』のゴールは最後から2番目の〈錨〉に到達することなんですね。
錨は『希望のゲーム』の重要な象徴であり、まさに希望のカードです。このゲームでは錨のカードに到達することが目的です。ドイツの伝統において、錨は天職と感じる仕事に従事していることを示していて、人生の中で嵐が吹き荒れてもその場につなぎとめておいてくれる人生の錨を象徴しています。
錨のマークは西欧では希望、強さ、安定の象徴として大切にされ、リレーなどの最終走者を「アンカー」と呼ぶのは最後の希望と信頼をその選手に託すという意味があるためだそうです。
36の十字架は最も幸運な場所の近くでプレイヤーは騙され、自分の意志に反して一歩余計に「十字」まで進んでしまっている。しばらくその場に留まっていなくてはならない。
最後の〈十字架〉は行き過ぎを示し、後ろに戻らなくてはならないのです。
さらにこのカードを使って、占いの楽しいゲームを行うこともできる。 36枚のカードすべてをシャッフルする。続いて占われる人にカードをカットしてもらう。そして8枚ずつ4列で並べていき、残りの4枚を5列目として並べる。質問者(占われる人)が女性なら29の淑女のカードを基点として、その周りのカードから物語を紡ぎだしていく。もし質問者(占われる人)が男性なら28の紳士のカードを基点として、その周りのカードで物語を作っていく。これは集まった人たちへの愉快な娯楽になるだろう。
上記の『希望のカード』の並べ方は、現在のルノルマン・カードのリーディングで用いられている「グラン・タブロー」の方法です。そして女性の場合は29の淑女のカードを中心にして周囲のカードと物語を作っていく方法もルノルマン・カードのリーディングの一つです。『希望のゲーム』がルノルマン・カードの原型であるというのはうなづけますね。
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